第2回 タミフルは豚インフルエンザに有効か?
メキシコでの死亡者数が大幅に下方修正される直前の4月28日朝、舛添・厚生労働相はメキシコ、米国、カナダで、感染症予防法に基づく新型インフルエンザが発生したと宣言しました。(朝日新聞 2009.4.28 13:29)舛添氏は記者会見で、今回の新型インフルエンザは弱毒性の可能性があり、抗インフルエンザ薬のタミフル、リレンザが有効との認識を示し、「万が一かかっても、すぐに治療し、的確な処置をすれば、十分治癒するし命が助かる」と指摘。「正確な情報に基づき、冷静に対応していただくことが最も大切」と国民に呼びかけました。問題は、私たちに「正確な情報」が与えられているのかどうかです。
舛添・厚生労働相の宣言は「感染症法第6条第7号」に基づくものであること、厚生労働省の「新型インフルエンザQ&A」に記されています。「感染症法第6条第7号」には次のように書かれています。
「この法律において『新感染症』とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかつた場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。」
まず、大臣が「弱毒性の可能性」を認識しておきながら、「感染症法第6条第7号」を適用するのは不適切でしょう。「当該 疾病に罹った場合の 病状の程度が重篤」かどうかは、4月29日深夜のWHO電話会議で早くも否定されています。
国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長らは4月29日深夜、アメリカ疾病対策センター(CDC)やメキシコ、カナダなどによる世界保健機関(WHO)の電話会議に参加。アメリカではほとんどの感染者が軽症で、毎年流行するインフルエンザと同じ気道症状にとどまり、タミフルなどの治療薬を投与しなくても回復していることを確認しています。そして、翌日「今回の新型インフルエンザの世界的大流行(パンデミック)による感染者数の状況は、感染者数が今後増加しても、多くが軽症ですみ重症例は少ない可能性が高い」と発表しました。(5.1 毎日新聞)メキシコの重症患者は、他の病院で服用している薬による免疫低下などが原因とみられるとのことです。
世界保健機関(WHO)も4月30日、新型インフルエンザの呼称を「インフルエンザA(H1N1)」に改める、と発表しました。(5.1 J-Cast ニュース)
さらに、今回の騒動の火付け役だったメキシコのコルドバ保健相が、4月末に豚インフルエンザによる死亡者数を大幅に下方修正したのに続き、5月8日、新型インフルエンザによる同国の死者45人のうち半数が、肥満、持病、喫煙などの健康不安を抱えていたと発表しました。(5.8 毎日新聞夕刊)コルドバ保健相によると、死者の24.4%は肥満で、その半数以上は標準体重の2倍もあったとのことです。さらに11.11% は 狭心症や高血圧などの心臓疾患、8.9%がヘビースモーカー。その他糖尿病患者やがん患者もいたというのですから、コルドバ保健相は確信的「狼少年」だったと考えられます。世界保健機関(WHO)のブリアン・インフルエンザ対策部長代理も、「メキシコの死亡者」には元々健康でなかった人たちが含まれていたことを認めています。
もうこうなってくると、何を騒いでいるのかわからなくなります。舛添・厚生労働相の宣言も撤回されてしかるべきです。しかし、未だに撤回されていません。それに、なぜか米州保健機関だけは「仮にメキシコが感染対策を全く行わなかったら、死者は8600人に上った可能性があった」と分析し、予防対策継続の重要性を訴えています。(5.8 毎日新聞夕刊)その根拠は不明です。
国立感染症研究所が「感染しても軽症で済み、タミフルも必要ない」と発表していますが、より正確には「タミフルには効果がない」だと思われます。タミフルのメーカー自身が、今回の豚インフルエンザに対し、現行のタミフルは有効とは元々考えていないようです。(以下、FNNニュース04/30 13:03より引用)
インフルエンザ治療薬「タミフル」を製造するロシュ社がFNNのインタビューに応え、今のところ、治療薬が不足した状態ではないことを明らかにした。(中略)具体的な期日は決まっていないものの、必要に応じて、新型インフルエンザ用に改良したタミフルの製造も行うという。(引用終わり)
新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)用に改良するということは、現行のタミフルには効果がないと言っているのと同じです。ロシュ社のウエブサイトにあるインフルエンザ情報(2009.5.3)の項には、The WHO and US CDC report Tamiflu is active against this new swine flu virus A(H1N1).「WHO と米CDCが新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスにタミフルが有効だと言っている」とあります。ロシュ社は、「WHOと米CDCが言っているだけで、現行のタミフルが有効かどうかは私たちにはわからない」と言っているわけで、FNNのインタビューを裏付けています。
なぜロシュ社は、「タミフルがインフルエンザA(H1N1) (※Aソ連型)に有効だ」と言わないのでしょうか? 日経メディカル(2009.1.8)はタミフルが効かないA(H1N1)が世界を席捲中であると次のように報じています。(以下引用)今シーズンにおいて、Aソ連型タミフル耐性ウイルスが、日本で93%に見つかっていたことが分かった。世界保健機関(WHO)が2008年12月29日時点でまとめたところ、2008年第4四半期において、日本では14検体中13検体からAソ連型タミフル耐性ウイルスが検出された。英国でも14検体中13検体で見つかっている。ガーナ(1検体中1例)、カナダ(1検体中1例)、イスラエル(1検体中1例)、ノルウェー(1検体中1例)などからも報告されており、世界全体では33検体中30検体から耐性ウイルスが検出された。出現頻度は91%と高率だった。
昨シーズンにおけるAソ連型タミフル耐性ウイルス出現の第一報は、2008年1月末にノルウェーからもたらされた。75%という高い割合でタミフル耐性ウイルスが見つかり、報告を受けたWHOは直ちに、欧州をはじめアメリカ、アジアなど各地域のサーベイランス機関に調査を求め、耐性ウイルスの現状把握に動いた。その結果、2007年後半から今年3月の調査では、耐性株の出現頻度は世界全体で16%にのぼり、2008年4~10月の調査では39%に拡大していた。日本でも全体では 2.6%だったものの、鳥取県で37%という高頻度で耐性株が検出されるなど、今シーズンは耐性ウイルスを強く意識した診療が求められる状況となっていた。(引用終わり)
感染研の小田切孝人インフルエンザウイルス室長が、「A型には第一選択の治療薬として、リレンザを使うという戦略を取らなければならなくなる可能性もある」と話している(熊本日日新聞 2009年2月13日付朝刊)のは、このような事情によるものでしょう。
ところが、豚インフルエンザ騒動の前に、厚生労働省がとった対策はまったく実情を無視するものでした。
「厚生労働省は2月、備蓄目標について、それまでの人口の23%(2935万人分)から45%(5861万人分)へと他の先進国並みに引き上げた。内訳はタミフル5460万、リレンザ401万人分。国は都道府県と おおむね折半で備蓄を進めており、自治体側には2011年度をめどに確保するよう指示。国分については現在、新目標に見合う量が確保されつつある。」(5.4 読売新聞)
タミフルが効かないウイルスがどんどん広がっているのに、タミフルの備蓄を増やすという政策のどこに合理性があるというのでしょう。タミフルのメーカーを儲けさせているだけです。それでなくても日本はタミフルの最大、最高の顧客なのです。
「2005年11月にFDAの小児諮問委員会で報告された際には、「タミフル」の全世界での使用量のうちおよそ75%を日本での使用が占めており、世界各国のうちで最も多く使用されている上、同2位のアメリカ合衆国と比べ、子供への使用量は約13倍であった。」(Wikipedia「オセルタミビル」) そこへもってきて、今回の騒動になった豚インフルエンザは、タミフル耐性株が世界中を席捲したA(H1N1)と同じなのに、なぜかタミフルが有効だという。厚生労働省にとっては政策の破綻を覆い隠す神風のような騒動だといえます。「他の先進国並みに引き上げた」というのも、言いすぎです。アメリカでさえ、人口の25%分が最終目標であり、ニュージーランド30%、イギリス25%、カナダも20%です。高率なのはオーストラリア40%、フランス50%ですが、どちらもロシュ社の社長が言っているだけです。(独立行政法人・労働者健康福祉機構 海外勤務健康管理センター「各国のタミフル備蓄情報 2007.4.27」)
それでも、今回の新型インフルエンザ発生を受けて、急きょ備蓄計画の前倒しを実施するか検討を始めたのは、15道府県にものぼります。異常なのは東京都です。「新目標では人口の45%の半分に当たる 280万人分を確保すればよい計算だが、独自の判断ですでに404万人分を備蓄済み。さらに10年度中には800万人分に達する見通しという。」(5.4 読売新聞)
この騒動で、厚労省と東京都のめちゃくちゃな政策が目立たなくなってしまいました。
このように、今回の豚インフルエンザ騒動は、治療薬タミフルが世界中でインフルエンザの主流であるA(H1N1)に対して まったく効果がなくなってしまった、特に大口顧客である日本でも効果がないことが確認された直後に、にわかに持ち上がったという胡散臭さがあるのです。テポドンが発射されるとの情報が流れると、とても命中するとは思えないほど射程の短い迎撃ミサイルを大量に配備しようとするのと同じ構図といえるでしょうか。
なお、インフルエンザA(H1N1)が 治療薬タミフルを無効化してしまった原因としては、タミフルの濫用によって耐性ができてしまったという可能性はないそうです。感染研の小田切孝人インフルエンザウイルス室長は「耐性はウイルスの突然変異で 生まれたと考えられる」と 指摘していますし (熊本日日新聞2009年2月13日付朝刊)、同所のレポートには次の記述があります。
「耐性株の大半はオセルタミビル(商品名タミフル)が使用されていない地域で発生しており、またオセルタミビルを服用していない患者から分離されているので、タミフルの使用によって耐性ウイルスが選択されて流行しているわけではない。」(国立感染症研究所「2008/2009 インフルエンザシーズンにおけるA(H1N1)オセルタビル耐性株の国内発生状況-第1報」
今回騒動になっているインフルエンザA(H1N1)は いくら探しても、タミフルが治療薬として有効だとの科学的知見が見つかりません。でてくるのは「WHOと米国CDCが有効だと言っている」との伝聞情報だけです。国立感染症研究所も同様で、「ブタインフルエンザの治療薬はあります。CDCはブタインフルエンザウイルスの感染の治療や予防にオセルタミビル(訳註:商品名タミフル)またはザナミビル(訳註:商品名リレンザ)の使用を推奨しています」となっています。しかし、現実は、国立感染症 研究所の所長も参加した WHOの電話会議で、「タミフルなどの治療薬を投与しなくても回復している」ことが確認されているのです。(5.1 毎日新聞)
「スイスの製薬大手ロシュは5月2日、世界保健機関(WHO)から、豚インフルエンザの発生に対応して同社の抗ウイルス薬「タミフル」の緊急在庫を活用するようにとの要請があったと発表した。(中略)ロシュは、『関係者すべての最良の利益のためにタミフルを増産している』と表明した。」(ジュネーブ 5.2 AFP=時事)とあります。「関係者すべての最良の利益」とは 何を指しているのでしょうか? 「パンデミックを抑えること」は この中に含まれていないように感じます。国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は5月8日、日本記者クラブで記者会見し、北米発の新型インフルエンザの感染が世界的に広がっていることを受け、これまでの水際作戦から国内侵入を前提とした対策の実施に、発想を転換する時期に来ているとの認識を示しました。このとき、寺田寅彦の随筆の一説を引き、「ものをこわがらな過ぎたり こわがり過ぎたり するのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい。」「(新型インフルエンザ)に対して正しく怖がることができるかが課題である。」と語りました。(5.9 日本農業新聞)これらの事情をすべて知る岡部はどのような心情で寺田の言葉を引用したのでしょうか?
メキシコでの死亡者数が大幅に下方修正される直前の4月28日朝、舛添・厚生労働相はメキシコ、米国、カナダで、感染症予防法に基づく新型インフルエンザが発生したと宣言しました。(朝日新聞 2009.4.28 13:29)舛添氏は記者会見で、今回の新型インフルエンザは弱毒性の可能性があり、抗インフルエンザ薬のタミフル、リレンザが有効との認識を示し、「万が一かかっても、すぐに治療し、的確な処置をすれば、十分治癒するし命が助かる」と指摘。「正確な情報に基づき、冷静に対応していただくことが最も大切」と国民に呼びかけました。問題は、私たちに「正確な情報」が与えられているのかどうかです。
舛添・厚生労働相の宣言は「感染症法第6条第7号」に基づくものであること、厚生労働省の「新型インフルエンザQ&A」に記されています。「感染症法第6条第7号」には次のように書かれています。
「この法律において『新感染症』とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかつた場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。」
まず、大臣が「弱毒性の可能性」を認識しておきながら、「感染症法第6条第7号」を適用するのは不適切でしょう。「当該 疾病に罹った場合の 病状の程度が重篤」かどうかは、4月29日深夜のWHO電話会議で早くも否定されています。
国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長らは4月29日深夜、アメリカ疾病対策センター(CDC)やメキシコ、カナダなどによる世界保健機関(WHO)の電話会議に参加。アメリカではほとんどの感染者が軽症で、毎年流行するインフルエンザと同じ気道症状にとどまり、タミフルなどの治療薬を投与しなくても回復していることを確認しています。そして、翌日「今回の新型インフルエンザの世界的大流行(パンデミック)による感染者数の状況は、感染者数が今後増加しても、多くが軽症ですみ重症例は少ない可能性が高い」と発表しました。(5.1 毎日新聞)メキシコの重症患者は、他の病院で服用している薬による免疫低下などが原因とみられるとのことです。
世界保健機関(WHO)も4月30日、新型インフルエンザの呼称を「インフルエンザA(H1N1)」に改める、と発表しました。(5.1 J-Cast ニュース)
さらに、今回の騒動の火付け役だったメキシコのコルドバ保健相が、4月末に豚インフルエンザによる死亡者数を大幅に下方修正したのに続き、5月8日、新型インフルエンザによる同国の死者45人のうち半数が、肥満、持病、喫煙などの健康不安を抱えていたと発表しました。(5.8 毎日新聞夕刊)コルドバ保健相によると、死者の24.4%は肥満で、その半数以上は標準体重の2倍もあったとのことです。さらに11.11% は 狭心症や高血圧などの心臓疾患、8.9%がヘビースモーカー。その他糖尿病患者やがん患者もいたというのですから、コルドバ保健相は確信的「狼少年」だったと考えられます。世界保健機関(WHO)のブリアン・インフルエンザ対策部長代理も、「メキシコの死亡者」には元々健康でなかった人たちが含まれていたことを認めています。
もうこうなってくると、何を騒いでいるのかわからなくなります。舛添・厚生労働相の宣言も撤回されてしかるべきです。しかし、未だに撤回されていません。それに、なぜか米州保健機関だけは「仮にメキシコが感染対策を全く行わなかったら、死者は8600人に上った可能性があった」と分析し、予防対策継続の重要性を訴えています。(5.8 毎日新聞夕刊)その根拠は不明です。
国立感染症研究所が「感染しても軽症で済み、タミフルも必要ない」と発表していますが、より正確には「タミフルには効果がない」だと思われます。タミフルのメーカー自身が、今回の豚インフルエンザに対し、現行のタミフルは有効とは元々考えていないようです。(以下、FNNニュース04/30 13:03より引用)
インフルエンザ治療薬「タミフル」を製造するロシュ社がFNNのインタビューに応え、今のところ、治療薬が不足した状態ではないことを明らかにした。(中略)具体的な期日は決まっていないものの、必要に応じて、新型インフルエンザ用に改良したタミフルの製造も行うという。(引用終わり)
新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)用に改良するということは、現行のタミフルには効果がないと言っているのと同じです。ロシュ社のウエブサイトにあるインフルエンザ情報(2009.5.3)の項には、The WHO and US CDC report Tamiflu is active against this new swine flu virus A(H1N1).「WHO と米CDCが新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスにタミフルが有効だと言っている」とあります。ロシュ社は、「WHOと米CDCが言っているだけで、現行のタミフルが有効かどうかは私たちにはわからない」と言っているわけで、FNNのインタビューを裏付けています。
なぜロシュ社は、「タミフルがインフルエンザA(H1N1) (※Aソ連型)に有効だ」と言わないのでしょうか? 日経メディカル(2009.1.8)はタミフルが効かないA(H1N1)が世界を席捲中であると次のように報じています。(以下引用)今シーズンにおいて、Aソ連型タミフル耐性ウイルスが、日本で93%に見つかっていたことが分かった。世界保健機関(WHO)が2008年12月29日時点でまとめたところ、2008年第4四半期において、日本では14検体中13検体からAソ連型タミフル耐性ウイルスが検出された。英国でも14検体中13検体で見つかっている。ガーナ(1検体中1例)、カナダ(1検体中1例)、イスラエル(1検体中1例)、ノルウェー(1検体中1例)などからも報告されており、世界全体では33検体中30検体から耐性ウイルスが検出された。出現頻度は91%と高率だった。
昨シーズンにおけるAソ連型タミフル耐性ウイルス出現の第一報は、2008年1月末にノルウェーからもたらされた。75%という高い割合でタミフル耐性ウイルスが見つかり、報告を受けたWHOは直ちに、欧州をはじめアメリカ、アジアなど各地域のサーベイランス機関に調査を求め、耐性ウイルスの現状把握に動いた。その結果、2007年後半から今年3月の調査では、耐性株の出現頻度は世界全体で16%にのぼり、2008年4~10月の調査では39%に拡大していた。日本でも全体では 2.6%だったものの、鳥取県で37%という高頻度で耐性株が検出されるなど、今シーズンは耐性ウイルスを強く意識した診療が求められる状況となっていた。(引用終わり)
感染研の小田切孝人インフルエンザウイルス室長が、「A型には第一選択の治療薬として、リレンザを使うという戦略を取らなければならなくなる可能性もある」と話している(熊本日日新聞 2009年2月13日付朝刊)のは、このような事情によるものでしょう。
ところが、豚インフルエンザ騒動の前に、厚生労働省がとった対策はまったく実情を無視するものでした。
「厚生労働省は2月、備蓄目標について、それまでの人口の23%(2935万人分)から45%(5861万人分)へと他の先進国並みに引き上げた。内訳はタミフル5460万、リレンザ401万人分。国は都道府県と おおむね折半で備蓄を進めており、自治体側には2011年度をめどに確保するよう指示。国分については現在、新目標に見合う量が確保されつつある。」(5.4 読売新聞)
タミフルが効かないウイルスがどんどん広がっているのに、タミフルの備蓄を増やすという政策のどこに合理性があるというのでしょう。タミフルのメーカーを儲けさせているだけです。それでなくても日本はタミフルの最大、最高の顧客なのです。
「2005年11月にFDAの小児諮問委員会で報告された際には、「タミフル」の全世界での使用量のうちおよそ75%を日本での使用が占めており、世界各国のうちで最も多く使用されている上、同2位のアメリカ合衆国と比べ、子供への使用量は約13倍であった。」(Wikipedia「オセルタミビル」) そこへもってきて、今回の騒動になった豚インフルエンザは、タミフル耐性株が世界中を席捲したA(H1N1)と同じなのに、なぜかタミフルが有効だという。厚生労働省にとっては政策の破綻を覆い隠す神風のような騒動だといえます。「他の先進国並みに引き上げた」というのも、言いすぎです。アメリカでさえ、人口の25%分が最終目標であり、ニュージーランド30%、イギリス25%、カナダも20%です。高率なのはオーストラリア40%、フランス50%ですが、どちらもロシュ社の社長が言っているだけです。(独立行政法人・労働者健康福祉機構 海外勤務健康管理センター「各国のタミフル備蓄情報 2007.4.27」)
それでも、今回の新型インフルエンザ発生を受けて、急きょ備蓄計画の前倒しを実施するか検討を始めたのは、15道府県にものぼります。異常なのは東京都です。「新目標では人口の45%の半分に当たる 280万人分を確保すればよい計算だが、独自の判断ですでに404万人分を備蓄済み。さらに10年度中には800万人分に達する見通しという。」(5.4 読売新聞)
この騒動で、厚労省と東京都のめちゃくちゃな政策が目立たなくなってしまいました。
このように、今回の豚インフルエンザ騒動は、治療薬タミフルが世界中でインフルエンザの主流であるA(H1N1)に対して まったく効果がなくなってしまった、特に大口顧客である日本でも効果がないことが確認された直後に、にわかに持ち上がったという胡散臭さがあるのです。テポドンが発射されるとの情報が流れると、とても命中するとは思えないほど射程の短い迎撃ミサイルを大量に配備しようとするのと同じ構図といえるでしょうか。
なお、インフルエンザA(H1N1)が 治療薬タミフルを無効化してしまった原因としては、タミフルの濫用によって耐性ができてしまったという可能性はないそうです。感染研の小田切孝人インフルエンザウイルス室長は「耐性はウイルスの突然変異で 生まれたと考えられる」と 指摘していますし (熊本日日新聞2009年2月13日付朝刊)、同所のレポートには次の記述があります。
「耐性株の大半はオセルタミビル(商品名タミフル)が使用されていない地域で発生しており、またオセルタミビルを服用していない患者から分離されているので、タミフルの使用によって耐性ウイルスが選択されて流行しているわけではない。」(国立感染症研究所「2008/2009 インフルエンザシーズンにおけるA(H1N1)オセルタビル耐性株の国内発生状況-第1報」
今回騒動になっているインフルエンザA(H1N1)は いくら探しても、タミフルが治療薬として有効だとの科学的知見が見つかりません。でてくるのは「WHOと米国CDCが有効だと言っている」との伝聞情報だけです。国立感染症研究所も同様で、「ブタインフルエンザの治療薬はあります。CDCはブタインフルエンザウイルスの感染の治療や予防にオセルタミビル(訳註:商品名タミフル)またはザナミビル(訳註:商品名リレンザ)の使用を推奨しています」となっています。しかし、現実は、国立感染症 研究所の所長も参加した WHOの電話会議で、「タミフルなどの治療薬を投与しなくても回復している」ことが確認されているのです。(5.1 毎日新聞)
「スイスの製薬大手ロシュは5月2日、世界保健機関(WHO)から、豚インフルエンザの発生に対応して同社の抗ウイルス薬「タミフル」の緊急在庫を活用するようにとの要請があったと発表した。(中略)ロシュは、『関係者すべての最良の利益のためにタミフルを増産している』と表明した。」(ジュネーブ 5.2 AFP=時事)とあります。「関係者すべての最良の利益」とは 何を指しているのでしょうか? 「パンデミックを抑えること」は この中に含まれていないように感じます。国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は5月8日、日本記者クラブで記者会見し、北米発の新型インフルエンザの感染が世界的に広がっていることを受け、これまでの水際作戦から国内侵入を前提とした対策の実施に、発想を転換する時期に来ているとの認識を示しました。このとき、寺田寅彦の随筆の一説を引き、「ものをこわがらな過ぎたり こわがり過ぎたり するのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい。」「(新型インフルエンザ)に対して正しく怖がることができるかが課題である。」と語りました。(5.9 日本農業新聞)これらの事情をすべて知る岡部はどのような心情で寺田の言葉を引用したのでしょうか?
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by meisou22
| 2009-05-13 11:35